「共通の知り合いがいない」アプリ婚が1年未満で破綻しやすいワケ

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Diy13

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マッチングアプリで理想の結婚相手に出会うことはできるのか。夫婦関係研究家の岡野あつこさんは「この1年でアプリ婚の離婚相談が増えた。アプリ婚のリスクを知ることが大切だ」という——。
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■最初から対面の出会いとは違う問題

新型コロナウイルスの出現によりステイホームが常態化してから、一年が経った。最近はコロナ前には少なかったテーマの離婚相談が増えている。

そのひとつが、マッチングアプリによる結婚や離婚の相談案件だ。以前と比べ、生活様式にさまざまな変化をもたらした新型コロナウイルスは、男女の「出会い」にも影響を及ぼしていることを実感する。

相談者のなかでマッチングアプリを利用して結婚した、あるいはこれから結婚を考えているという人に対し、「なぜマッチングアプリを活用しようと思ったのか?」という質問をすると、「新しい出会いを求めて」「将来への不安から」「パートナーが欲しかった」といった回答をする人が多い。

ところが、せっかくマッチングアプリを通じて結ばれた縁にも落とし穴はある。対面で出会い、共に過ごす時間を重ねていくなかで育む恋愛関係とは違う要素がトラブルを生むことも少なくない。

実際にあったこんなケースで見てみよう。

■離婚→マッチングアプリに登録→4カ月で再婚

【CASE1】前夫を見返すために再婚を急ぎすぎて後悔したケース

Aさん(30代)がはじめて相談に訪れたのは1年前。愛人と浮気に走った夫との夫婦問題の相談がきっかけだった。当時、Aさんは夫に対して愛情が残っていたものの、結局は相場より多額の慰謝料と財産分与の条件に合意して離婚を選択。まもなく3歳になる長男は母親のAさんが引き取ることになった。

まずまず順調に新しい人生のスタートをきったように見えたAさんだが、心は前夫への復讐心で燃えていたという。「とにかく別れた夫を見返したくて、彼より早く、彼よりいい条件の男性と再婚をしたかった」と話すAさんは、離婚後まもなくマッチングアプリに登録。数人の男性と出会った末、離婚して4カ月目に再婚したとのことだった。

■「子煩悩と登録したほうが女性ウケがいい」

ところが、最近になってまた夫婦問題の相談でAさんと再会をはたした。Aさんいわく、「結婚前に聞いてた話とはだいぶ違う。こんなことなら急いで結婚するんじゃなかった」。新しくAさんの夫となった男性は、マッチングアプリの登録上では「年商1億円の企業の経営者」。ところが、実際にビジネスを動かしているのは彼の父親であって、本人は肩書こそ「社長」だが収入は驚くほど少なく、自由に使えるお金もほとんどないという。

写真=iStock.com/takasuu
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しかも、これも結婚生活がスタートして判明したことだが、マッチングアプリでは「子煩悩」とされていたものの、実際は「子どもはうるさいから嫌い。でも、子煩悩と登録したほうが女性ウケがよかったから」と平然としているとのこと。Aさんは、パートナーを得た今も、ほぼワンオペで育児をこなす日々。二度目の離婚を真剣に考えている。

■5年付き合った女性と別れた直後にアプリ婚

【CASE2】頼れる人が不在で悪化した夫婦関係を修復できないケース

「今思えば、結婚式当日からうっすらと暗雲が漂っていました」と語るのはBさん(40代)。5年間交際していた女性と別れた直後、世の中はコロナ禍になった。リモートワークがはじまり、部屋で過ごす毎日にBさんが思ったのは「このままずっとひとりでいたくない」ということ。そこでマッチングアプリを活用し、今の妻とオンラインでデートを重ねていくうちに結婚することになったのだった。

結婚式は、親族とそれぞれ仲のいい友人数名とが集まり、小さなお店を貸し切ってこぢんまりとおこなった。「本人とだって結婚前に対面で会ったのは数えるくらい。ましてや、お互いの友人になんて、会う機会もなかった」とはBさん。お互いの両親も、式の当日が初顔合わせ。共通の知り合いがひとりもいないせいもあって、結婚式は終始ぎこちないものだったという。

■共通の知り合いがひとりもいない孤立無援の状態

じつは、今夏で結婚1年になる現在、Bさんは妻との離婚を考えているとのこと。理由は、「価値観の不一致」。Bさんいわく、「狭い部屋で2人が在宅ワークをしていると、ささいなことで苛立ち、生活上のトラブルもたびたび起こる。それは仕方がないとしても、取り返しのつかないような大きなケンカに発展した時、相談したり頼ったりする人が誰もいないのはきつい。お互いの共通の知り合いがひとりもいないので、話に共感してくれる人も関係修復に尽力してくれる人もいないんです」。

写真=iStock.com/kemalbas
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印象的だったのは、Bさんが自分の両親に電話して、夫婦関係の悪化を告げた時のリアクションだ。「ウチの両親は、そもそもマッチングアプリで男女が出会うこと自体に納得できないようで、僕らの結婚には最初から反対していました。だから『ほら、やっぱりね。そうなると思った』と、あきれられました」。

■「職業:モデル」と偽って登録

【CASE3】結婚の約束後、突然の音信不通になったケース

「事実を知った時は『嘘でしょ?』と、ただ驚くしかありませんでした」とはCさん(20代)。コロナ禍で将来を考え、それまで漠然としていた結婚願望が現実的になったCさんは、マッチングアプリをはじめた。すぐに3歳年上の男性とオンライン上で出会って意気投合したという。

何度もやりとりをした後で対面した時の相手の印象を「画像より少し老けているとは思ったけれど、私も自分のプロフィール画像を加工していたから“お互いさま”かな、と」と話すCさん。ちなみに、Cさんが加工していたのは画像だけではなかった。職業を「モデル」としていたが、実際は「アルバイト」。モデル経験は、ネイルサロン勤務の友人に頼まれ、お店のサイトに掲載するためのネイルのサンプルとして、爪の撮影をしただけだった。

■音信不通になったと思ったら妻帯者だった

そんなCさんと男性は、結婚の約束をして2人で旅行に行くまでの親密な関係になったが、旅行から帰ってきた後、突然、音信不通になったという。男性と連絡がとれなくなって焦ったCさんは、詳しい知人に依頼して相手の男性の素性をリサーチしたところ、彼がその後も発信し続けているSNSを見つけた。そこにアップされている画像の位置情報や、写り込んでいる背景から、本人らしき人物が判明。ところが、その男性は妻帯者であることも知らされたのだった。

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Cさんいわく、「考えてみれば、会話のなかでも不審に思う点はいくつかあった。『料理はできない』といいながら家庭料理を食べている話をしたり、子ども服のブランドに妙に詳しかったり……。もっと慎重に振る舞えばよかった」と、今も後悔しきりだ。

■上手につきあっていく意識を身につけたい

もちろん、マッチングアプリを活用して出会い、円満な結婚生活を続けているケースもある。「『出会い』のハードルが低く、気軽にアプローチしやすい」「たとえマッチングしなくても、対面より傷が浅くすむことも多い」「横のつながりが薄いので『なりたい自分』になりやすい」といったマッチングアプリならではのメリットもある。

その反面、デメリットもある。「マッチングアプリの目的に対し、相手と温度差があっても気づきにくい」「横のつながりが薄いので、相手の素性が確実ではないこともある」「いざ結婚となった時、デジタルネイティブ世代ではない親や親戚への理解が得にくい」といった問題もある。

ただ、自分が幸せになるための手段が増えたのは決して悪いことではないのも事実。「Withコロナ」の時代、対面での出会いが限られるようになって、マッチングアプリを活用した恋愛や結婚も増えていくことが予想されるなか、上手に付き合っていく知識と意識をくれぐれも身につけておきたいものだ。

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岡野 あつこ(おかの・あつこ)
夫婦問題研究家
NPO日本家族問題相談連盟理事長。株式会社カラットクラブ代表取締役立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立。これまでに25年間、3万件以上の相談を受ける。『最新 離婚の準備・手続きと進め方のすべて』(日本文芸社)『再婚で幸せになった人たちから学ぶ37のこと』(ごきげんビジネス出版)『離婚カウンセラーになる方法』(ごきげんビジネス出版)など著書多数。
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(夫婦問題研究家 岡野 あつこ)